■□■【Mikio Futatsukaの現地レポート】■□■
コースを埋め尽くした5万の観衆のどよめきの中、アナウンスの声が響いた。
「1分43秒13 ニューベストタイム アキラーササキー」
2本目に会心の滑りを見せて、長い時間トップに立っていたベンジャミン・ライヒ(AUT)を、佐々木明が100分の2秒上回って引きずり下ろした瞬間だった。ナイター照明に照らし出されたフィニッシュエリアの中では、今シーズンのスラロームの開幕戦、ビーバークリーク以来の、ガッツポーズを見せる佐々木がいた。
あと4人。続く選手は皆川賢太郎。佐々木が守るか、皆川が上回るか、どちらを応援していいか分からない状況だ。どういうオーダーでも良いが、1・2位に立って欲しい。しかし、皆川は1本目のような会心の滑りができずに、順位を下げてしまった。それでもゴールした時点で5位。ベストテンは確実だ。
続く選手はライナー・ションフェルダー(AUT)。やや不安定な滑りはゴールまでたどり着いたが、佐々木はおろか、皆川にも届かなかった。これで佐々木の表彰台は確定した。
この状況に、私の横にいたフランスのカメラマンがこちらに視線を送り、ゆっくりと手をたたいた。現場で切磋琢磨する我々のライバル(仲間)も、佐々木の活躍を素直に祝福する。
しかし喜びはまだ終わらない。佐々木はまだトップにいる、つまり優勝の可能性だって十分に残されている。とはいえ、次は前戦で連勝はとぎれたものの、絶好調には変わりないジョルジョ・ロッカ(ITA)だ。その滑りは、やはり速いし安定している。このままトップタイムでフィニッシュするかと思った瞬間、ゴール直前でコースアウトしてしまった。これで2位以上は確定。思わずガッツポーズが出てしまう。
あと一人を残してAkira Sasakiの名前は電光掲示板の一番上に輝いている。3年前のウェンゲンと同じ状況だ。今度こそ、初の優勝の瞬間はやってくるのか?
興奮に包まれた中、1本目トップのカーレ・パランダーが、今日のレース最後の選手としてコースに飛び出した。今シーズン、勝利からは遠ざかっているものの、その実力は侮れない。やはり速い、中間タイムで佐々木を上回ってきた。そして、そのスピードを維持したままゴール前の斜面を通過しフィニッシュ。電光掲示板を見ると、次々と表示が変わっていく。再び電光掲示板が点灯したとき、Akira SASAKIの表示は、今までの位置より一段低い位置に移っていた。パランダーは、佐々木を抜いてトップでゴールしたのだった。
佐々木明、今回も優勝はお預けだったが、それでも自己ベストタイの2位表彰台。ウェンゲンでの勢いでもぎ取った2位とは一味違う、期待された状況の中で、実力を出し切っての2位だ。
フィニッシュエリアでは、パランダー、ライヒ、ササキ、それぞれが歩み寄り、お互いの健闘を称え合う。この強力なメンバーの中に入っているという事実が、今の佐々木の世界での「立場」を示している。
2日前のキッツビューエル大会、思うような滑りが出来ずに下位に沈み、佐々木は第1シードから陥落していた。18番スタートという状況でのスタートは佐々木にとって、屈辱だったのではないだろうか。ところが、落ちたこと自体はそんなに気にしてはいなかった。
「落ちたら戻ればいいんでしょ」と
とはいえ、オリンピックでメダルを狙うには、ここシュラドミングで成績を出して、第1シードに戻らなければならなかった。そのため佐々木はシュラドミングの一枚バーンを「我武者羅(ガムシャラ)」にフルアタックした。
佐々木は滑ってる時に考える時間があるような滑りだとタイムも出ないし、ゴールした時の気分も良くないという。「それだけは、スゲー嫌で、ゴールしてガッツポーズをしたかった」と。
「今日はカーレ(パランダー)が速かった。でも自分がゴールしてトップで、その後のことはどうでもよかった。ゴールした時、気持ちよかったからね。俺はゴールしてガッツポーズをしたかったんだ」とプレスカンファレンス後に日本人記者に向かって話す佐々木の顔は晴れ晴れとしていた。
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